2013.7.29
三代目奮闘記
第100回『幸せが長く続く会社』
幸せが長く続く会社 2013_07_29
由紀精密は今後どんな会社を目指すのだろう。由紀精密の創業は1950年。筆者の祖父である大坪三郎が、大坪螺子(らし)製作所として始めた。会社名の通り、ネジを製造する会社であった。その後、株式会社化に伴い由紀精密工業に変更する(現在は由紀精密)。
由紀とは何か。良く聞かれる。これは、創業者妻、幸江(ゆきえ)の名前から来ている。読み方はゆきだが、漢字は異なる。「由」は、現社長、由男の名前から、「紀」の意味は、何世紀にわたって長く続いてほしいというメッセージが込められている。もともとの幸江のゆきは「しあわせ」である。社名から漢字の意味を探るなど古い考え方かもしれないが、原点に立ち返り、創業者の志を知る。これも重要だ。由紀精密は、「幸せが長く続く会社」だと筆者は勝手に思っている。 従業員が退職する時に、「なんて良い会社に勤められていたのだろう」と思える。お客様から見れば、「由紀精密がある事で、素晴らしいモノづくりができた」、社会から見れば、「由紀精密の挑戦で製造業が明るくなった」。従業員、お客様、社会、それぞれに幸せをもたらす。そんな会社でありたい。
技術面ではどうだろう。そもそも、モノづくりの会社である。技術は常に世の中の進化よりも一歩も二歩も先取りしていたい。まず、世の中の最先端のニーズを感じ取り、さらに、まだニーズになっていないその先の技術を予測する。このため、常に新しいものを求めているお客様と議論することも必要だし、世界中の新しいものを見て、それから何かを感じ取れる感性も必要だろう。
では、どういったモノを作る会社になるのか。由紀精密はモノづくりを通し、人間の可能性を拡大する事ができる会社になりたい。空を飛びたい、宇宙へ行きたい、深海に潜りたい、といった従来行けないところに行けるようになる、という可能性の拡張も一つ。体の一部を失ってしまった方に、機能を取り戻すだけでなく、プラスαの満足感を与える事もできるということも可能性の一つだろう。由紀精密が作ったものがあるから、できなかった事ができるようになった。由紀精密の作ったものはひと味違う。こう思われたら最高。
ここまでのキーワード、「幸せ」「進化」「人間の可能性の拡大」、モノづくりを通じこれらを実現していく会社でありたい。そのため、不用意な規模拡大も必要ないし、瞬間的な利益を追い求めて急速な生産拡大もないだろう。さまざまな要素が高密度に濃縮された会社でありたい。
100回にわたった連載も終わる。毎週の締切りから解放された安堵感もあるものの、寂しさも感じた。これまで、長い間愛読して下さった読者の皆様に、心から感謝の意を表したい。
(日刊工業新聞 7月29日付オピニオン面に掲載)