2013.3.4
三代目奮闘記
第84回『相田製作所の秘密』
相田製作所の秘密 2013_03_04
茅ケ崎市円蔵の工業団地。由紀精密から歩いて数十メートルのところに、ロボットを用いた自動ラインで船舶や建機の部品を切削加工する、相田製作所(相田利光社長)がある。従業員は7人。従業員数を上回る台数のロボットが材料を旋盤に送りこむ。ロボットを使った自動ラインは、大企業の量産ラインでは当たり前だが、この規模の工場では珍しい。部品単価が安くなり、スケールメリットを生かした大量生産でないと利益が出しにくいはずだ。
相田製作所はどうしているのか。その秘密は工場内のさまざまな工夫から見えてくる。自動ラインは連続運転に入るまでのセッティングが大変だ。例えば切削加工の加工条件をテスト加工で導出し、サイクルタイムを詰めていく。それと同時に製品をチャックするためのハンドを設計・製造し、ロボットの動作プログラムを作っていく。これらをすべて用意して連続加工の実験を繰り返し、調整し、ようやく連続運転に入ることができる。ここまでの作業に数週間かかることもあるが、相田製作所は非常に早い。
例えば旋盤の工具を交換しても工具の刃先位置が変わらないような交換装置を自社開発し製品化までこぎつけていることだ。ロボットハンドも自社開発で自動交換が可能だ。技術者のレベルも高く、経験豊富で加工条件の導出が早い。
短納期の要求に応えられることで、海外で量産する部品であっても、急ぎのニーズを取り込める。また、人が関係する立ち上げまでの時間を短縮することは、そのままコストダウンにつながる。多品種少量生産でもどんどん段取り替えを行って自動生産することで、小ロットを得意とする試作加工屋さんでは対応できない価格でも利益を出せる。
自動運転へのこだわりは、切りくずタンクにまで及ぶ。相田製作所の開発したシステムは自動的に切りくずを圧縮することで、タンクが満杯になるまでの時間を延ばし、夜間での無人運転の連続時間を伸ばしている。これも商品化している。
相田製作所にはさまざまなヒントがあり、大変勉強になる。何よりも少人数ゆえに生産で手いっぱいのはずのところを、新しいものを生み出していこうというスピリットを感じる。瀬戸輝専務は茅ケ崎ものづくりサークル(CmonoC)のメンバーでもあり、経営相談も含めてよく一緒に議論をするが、多忙の中でもいろいろと新しいことを考えている。
会社の強みをどこで出すか。素晴らしい製造業の経営者は自社のモノづくりを確実に武器としている。お客さんからの仕事を待つだけではなく、武器を生かし新たなニーズを生み出すことが強さの秘訣(ひけつ)なのだろう。
(日刊工業新聞 3月4日付オピニオン面に掲載)