第62回『とことん考える』

とことん考える 2012_08_27

外でセミが鳴き始めた。朝4時半。いつものように自宅のリビングでお気に入りのノートパソコンを前に考えている。昔から考えることは好きだ。いろいろなことを空想して一人にやにやしている時もあれば、不安のどん底に落ち込んでいる時もある。やってみなければ分からないから、考えていないで行動すればよいという話もあるだろうが、行動の価値を上げるためにも考えることは必要だと思っている。

由紀精密は創業63年目に突入した。100年企業となる37年後、どのような会社になっているのか、自分はどういう役割を果たしているのか。年初にあと40年は生き残る会社にすると断言したものの、実際に今後40年に何が起きてどうしていくのか、考えても考えてもきりがない。

よく「そんなに早く起きて何してるの」と聞かれるが、最近は考える時間を意識的にとろうとしている。朝は、誰にも、何事にも邪魔されずに考えに没頭できる。会社が動き始める時間に突入してしまうと、今起きていることに反応しているだけで時間がどんどんたつ。その場で判断しなければならないことが多く、センサーを敏感にして、頭の中のスペースを空けておかないと対応しきれない。

考える時にはいろいろなツールを使う。紙と鉛筆だったり、付箋だったり、パソコンのアプリケーションだったりする。その場で考えていることを最も早く思い通りに表現できる方法をとる。マインドマップを使うこともある。これはバラバラに発想したものを整理して考えるには非常に便利だ。

また、パワーポイントのようなプレゼンツールを使って、5年後、10年後の自分あるいは自社の置かれている状況を仮想して、その際に何を話すか、プレゼン資料を作って発表してみる。後から振り返って見ると面白い。実際に、パソコンの中には使われたことが一度もない資料が山のようにたまっている。

考えて決めたことに関しては、とことん実行する。考えるだけで実行しないのでは意味がない。必ず成功すると信じて突き進む。次々と出てくる障害は、乗り越えるべき課題が発生しただけであり、後戻りするための言い訳にはならない。自分の考えが深いほど、それを信じて突き進む原動力が強くなると思っている。

大幅な業種転換や海外での展示会、航空宇宙品質規格の取得、一般消費者向け製品開発。それらは考え抜いてやろうと決めたことであり、決めたからには必ず実行してきた。その積み上げが、この逆風の中でもなんとか成長を続けられている理由になっていると確信している。

20120827

(日刊工業新聞 8月27日付オピニオン面に掲載)