2012.2.6
三代目奮闘記
第38回『クラウド時代』
クラウド時代 2012_02_06
午前6時、自宅でフランスから見積もり依頼の図面を受取る。ノートパソコンに入っているCADで3次元データを確認すると、形状は製作上問題なし。図面の記載事項はフランス語なので、ネットの検索機能で翻訳しながら内容を確認。日本の図面でも見られるごく一般的な注意書きが並ぶ。材料名がわからないので、ネット上で各国の材料規格対応表を確認。表面処理も材料と同様に翻訳してネットで確認。一通り図面内容は把握した。ここまで20分。
ネットの翻訳機能を活用しながら、お礼と見積もり可能という返信メールで送る。6時半、クラウド上にある顧客情報管理(CRM)システムに、見積もり依頼の内容を登録する。図面の3次元データ、翻訳した内容、ダウンロードした各国の材料規格対応表も忘れずにアップロードする。ここまでで見積もり依頼を受ける作業が一通り完了。
次にすることは社内での工程、工数の見積もりと、社外の協力工場での表面処理の見積もり依頼。協力会社には今のうちに依頼メールを送っておこう。7時、朝ご飯を食べてゆっくり朝風呂に入ってリフレッシュ。朝風呂は中学生の頃からの習慣になっている。出社前に携帯電話で、クラウドで管理しているスケジュールを確認。今日は10時から17時までお客さまとの打ち合わせでいっぱいだ。
8時。出社してきた社長に社内工数の見積もりをお願いしてから車で外出。車内では英語の勉強のためという口実で買ってきた映画のDVDを聞き流す。忘れないうちにハンズフリーの携帯電話で協力会社に見積もり依頼のメールを送った件を確認。夕方には見積もりに必要な情報がすべて集まるので、あとは最終的な価格の決定後にFEDEXのウェブサイトで空輸費用と関税の計算。これは外出先でもネットがつながれば問題ない。18時に見積書をメールできれば、まだ向こうは午前中だから、その日のうちに注文を出してくれる可能性がある。希望納期は空輸も含めてあと10日しか無い。
20年前、まだインターネットも携帯電話も普及していなかった頃、こんな話はSFの世界だった。同じ見積もり回答をするまでに、下手したら1週間はかかっただろう。
一方で、こういった機能の進化について行くのが難しいのも確かだ。いまだにセキュリティーの問題からメールを使わない会社もあり、それを完全に否定するほどメールシステムが確実とも言いがたい。クラウド上に図面データや顧客情報を置くことについても同じだ。
だからといってこれらを利用しないかと言えば、「利用せずには競争に勝てない」のが事実となりつつある。IT化の危険を十分に把握しながら、しっかりした意思を持って使いこなして行く必要があるだろう。
(日刊工業新聞 2月6日付オピニオン面に掲載)