2012.1.9
三代目奮闘記
第34回『超小型衛星開発』
超小型衛星開発 2012_01_09
今年9月、ロシアのヤースヌイ宇宙基地より 27cm角の、とっても小さな人工衛星が打ち上がる。この衛星は、北極圏上空から海氷の状況をモニタリングし、海運会社を中心に、北極海を通り抜ける必要のある顧客に情報を提供する。これまでは、海氷が危険で通過が困難であった北極海航路を利用できれば、アジアから欧州へ行くのに、スエズ運河経由の3分の2、喜望峰経由の半分の距離になるという。この衛星は気象予報会社のウェザーニューズが、人工衛星開発のベンチャー企業、アクセルスペースに発注した。民間企業だけで打ち上げる商用超小型衛星としては世界初であろう。由紀精密は、この人工衛星の筐体(きょうたい)製造を担当させていただけることとなった。
アクセルスペースとの出会いは、2009年7月、取締役であり、エンジニアの宮下直己氏からの一本のメールであった。由紀精密のウェブサイトがきっかけである。そこから受注をいただき、ここ2年半に渡って取引を続けてきた。由紀精密の提案力と品質を高く評価していただいている。宮下氏は情報系が専門だが、3次元CADを使いこなし、複雑な筐体の機械設計から配線を含めたアセンブリーまでモデリングしてしまう、スーパーエンジニアである。
アクセルスペースは平均年齢31歳、若くて優秀なエンジニアばかり。そして、なにより熱い情熱を持っている。こんな素晴らしい会社と関われたのは、運が良かったのは間違いない。しかし、それだけではなく、人工衛星のような単品で高品質な製品には、隅々まで目が行き渡る中小企業のサイズがあっていることと、衛星の開発段階で由紀精密の加工技術面の提案力が生かせた点で、相性が良かった。
これまで宇宙関連の部品は、あまりにも特殊で要求される品質も桁違いに高く、コスト度外視の設計が多かった。設計者と実際の加工現場の間には何社もメーカーが入り、加工現場からの改善提案はなかなか設計者に届かなかっただろう。アクセルスペースと由紀精密の関係は、設計者と実際にマシンを使う技術者が直接話し、精度とコストについて最適解を導き出せる。これによって無駄なコストを廃し、押さえるべきポイントはしっかりと押さえる。一つの理想的な関係が構築されていると思っている。
9月の打ち上げに向けて、いよいよ実際に宇宙に飛んでいく部品の製造にとりかかる。多くの人々の夢が、多くの開発者の長年の思いが詰まっている衛星である。それを支える部品に間違いは許されない。3次元データの線一本、図面の寸法一つ、どういう設計者の意思が詰まっているかを確認しながら、丹精込めて作っていこうと思う。
(日刊工業新聞 1月9日付オピニオン面に掲載)