第30回『熱い交流会「S70’s」』

熱い交流会「S70’s」 2011_11_28

夜中12時をとっくに回っている。由紀精密は最後まで残業していた社員が今帰ったところ。隣の工場はまだ明るく、現場の機械は順調に生産を続けているようだ。それにしても中小製造業では経営者も社員もよく働く。最近、同規模の中小製造業の経営者仲間が増えてきた。どの会社もとても元気で、日本の製造業全体の置かれた厳しい環境を忘れてしまうほどである。みんなの共通点は①前向きで明るい②他人のせいにしない③気合でやり切るなどで、基本的な判断基準も近いことが多く、話していてとても共感できる。

 

JMCというラピッドプロトタイピングと鋳造の会社に、渡邊大知氏という社長がいる。彼は元プロボクサーで、それ以前にも大変ユニークな経歴を持っている。JMCは、この、製造業にとって苦しい環境の中でも、当然のように業績を伸ばしている。ここ10年の伸びは売り上げだけで見ても5倍を優に超える。社長は例に漏れず前向きで、自分の決めた売り上げ・利益目標を何としても達成しようとする強い意志がある。展示会にもどんどん参加し、自社の強みを生かした営業スタイルにはとても影響を受ける。

 

彼と彼の友人の弁護士、三谷淳氏が発起人となり、同世代の経営者、個人事業主等が集まって「S70’s」という刺激的な交流会を開催している。持ち回りで各自の熱い経験をプレゼンテーションし、それに他のメンバーがどんどん加わって、時間を忘れてしまう熱い議論になる。テレビの評論家の議論と違うのは、各自が自分の経験を基に自分の言葉で語り、他人の発言した言葉も尊重して受け入れて貪欲に自分の糧にしようと考えていることだ。それぞれ違ったことを話していても、反発するのではなく、交わることによって新しいアイデアが生まれてくる。

 

今朝の社内会議でとてもうれしいことがあった。由紀精密は9月決算。その後10月から年末にかけて、この1年をどういう目標を持って進めていくかを議論して決めていく。各部門から目標設定と必要なもの・人、他部門への要求などを発表していくのだが、今日の製造部門からの提案は、ただ一言。「これをやります。自分たちで考えて」という内容だった。通常ならば「こういう目標を立てたいが、そのためにはこれとこれが足りないです」となるだろうが、製造部の社員が自ら集まって議論して、こういった前向きな提案が導きだされた。経営側としては、とてもうれしい瞬間である。

 

「前向きさ」とは、そうなれと言われても、そうなることは難しい。むしろ、なんとなく伝染していくような気がしている。私の好きな言葉の一つ「倒れるなら前」。この言葉は、特に元プロボクサーの渡邊氏から強い共感を得られたようである。

20111128

(日刊工業新聞 11月28日付オピニオン面に掲載)