第25回『変革期まっただ中』

変革期まっただ中 2011_10_17

由紀精密は9月決算。10月からいよいよ52期目がスタートした。年に1回、このタイミングで、株式会社化してから現在に至るまでの売り上げ推移のグラフに新しい数字を書きこみながら、長いスパンでの売り上げ推移を振り返っている。

 

由紀精密の51期までを売上高の変化から大きく三つの過程に分けてみる。1期-25期(1985年)は、新しく茅ケ崎市円蔵に現在の工場を建てるまでの25年間。多少の増減を繰り返しながらも右肩上がりで成長を続けていく。これを成長期と呼ぼう。26期-41期(2000年)はITバブル崩壊の直前までで、多少の年間変動はあるものの、これを安定期としよう。そして42期(2001年)にはITバブル崩壊のあおりを受けて、売り上げが半減。まさに、瀕死(ひんし)の状態に追い込まれる。ようやく回復したところでリーマン・ショック、そこから悪夢の大震災と次々と危機が襲う。そのなかで安定期のレベルを超えるまで売り上げを伸ばしてきた。42期-現在は、まさに変革期と言えるだろう。

 

私はこの変革期のまっただ中に由紀精密に入社した。営業内容は一貫して精密切削加工で変わらないが、変革期からは様子が大きく変わってくる。ITバブル崩壊で、従来売り上げの7割以上を占めていた大手メーカーからの受注が半減。ここから、客先、仕事内容が一気に多様化する。1社依存体制からの脱却を迫られたわけだ。

 

多くの下請け型中小企業が悩む問題の一つに、1社依存体制からの脱却がある。依存度が大きければ大きいほど、自社の売り上げを自社でコントロールできなくなる。この状態では、ある特定のお得意様の要求にどうやって応えていくかを考える事が経営者の仕事になってしまう。日本全体が成長している状態では、お得意様の売り上げ増加にあわせて企業は成長する。要求に応えていくだけでよかったのである。

 

しかし、現在、残念ながら切削加工業界においては、とてもではないが成長状態にあるとは言い難い。この中で売り上げを伸ばしていくためには、当然客先を増やしていく、または新たな業界にチャレンジしていくことが必要になる。由紀精密はこの変革期の間で、顧客数を3倍以上に増やした。それならば売り上げも3倍と言いたいところだが、売り上げ自体は安定期の状態から3割程度の増加にとどまる。当然、顧客数が増えることで管理コストは上がり、それは利益率にも反映されている。

 

決して楽な状態ではないが、この方向性の中でしっかりとした利益を出していくことが必要と考え、IT化、品質規格取得など、あらゆる試みを実行し、変革を推進している。最低でもあと10年は変革期のまっただ中が続いていくことだろう。

20111017

(日刊工業新聞 2011年10月17日付オピニオン面に掲載)