2011.7.25
三代目奮闘記
第15回『衛星部品で快進撃』
衛星部品で快進撃 2011_07_25
なでしこジャパンがワールドカップを制した。こんな素晴らしいニュースがあるだろうか。もともと世界的に評価が高い日本の女性が、さらに脚光を浴びることになるだろう。ドイツのお客さまからメールが届いた。「おめでとうございます!私たちは負けましたが、おそらく7割以上のドイツサポーターが日本の勝利を祈っていました。日本チームと日本国民の勝利は本当に幸せです」。日本人として誇らしい。日本男児も負けてはいられない。百年に一度の大不況、千年に一度の大災害を経験した今だけに、本当に強い日本の技術を世界に認めてもらいたい。
由紀精密は人工衛星の部品を加工している。アクセルスペースという人工衛星専業のベンチャー企業が、天気予報でおなじみのウェザーニューズから受注した超小型衛星用の部品である。100点以上になる切削部品のほとんどを担当させていただいた。製造の様子はテレビにも取り上げられ、「なぜ由紀精密さんはそんな仕事をとれたの?」と多くの方から質問を受けた。きっかけはウェブサイトで、問い合わせを受けてやりとりしている間に由紀精密の提案能力に興味を持っていただき、受注につながった。
品質の高さはもちろんだが、人工衛星といえどもコストは度外視できない。超小型衛星は、価格の手頃さも大きなファクターである。切削加工屋の視点から、どのような加工が安く・精度良く加工できるのか、設計者と打ち合わせを重ね、最終的に良い製品に仕上げた。従来の大型衛星の世界では行われなかったことではないだろうか。ここは、「研究開発型町工場」をキャッチフレーズにしている由紀精密の強みである。
人工衛星の部品が中小製造業にとって良いビジネスになるか?という問いには、あまりにも業界が小さく製造するロットが少ないこと、さらには、安定して仕事があるわけでは無いため、それだけでビジネスにすることは難しいという答えになってしまう。しかし、逆に見ると、そういう仕事はまさにフレキシブルな中小製造業が得意なことでもある。
6月末に出展したパリエアショーの開催期間中に、イタリアの人工衛星関連の会社と知り合った。実際に国際宇宙ステーションにも採用されている実績のある会社である。早速困っていることをうかがい、見積もりを行い、サンプル製作までこぎ着けた。先週サンプルができあがり、いよいよ発送する。イタリアでは3カ月の納期がかかるという部品を、2週間で仕上げたことになる。初めてパリで打ち合わせを行ってから3週間しかたっていない。日本の信頼性が手元に届いた瞬間から実感できるように、梱包にも工夫を凝らしたい。今からお客さまの驚く顔が楽しみだ。ジャパンクオリティーで世界をあっと言わせたい。
(日刊工業新聞 2011年7月25日付オピニオン面に掲載)