第4回『航空機部品に参入』

航空機部品に参入 2011_04_25

航空機の部品を作りたい! 部品加工に関わる者なら、誰でも憧れる事であろう。私が由紀精密に入社した2006年、自社の部品が間接的にでも航空業界に関わっていると聞いただけで、ワクワクしたものである。リスクは大きい。旅客機の部品を作るのは、何百人もの乗客の命を預かることにもなる。覚悟を持って完璧な品質管理を目指さないといけない。しかし、それこそ由紀精密の60年の歴史と「信頼性」が必要とされるフィールドでもあるはずだ。

 

旅客機の部品を量産することになったきっかけは、航空関連部品を製造する大手からのメールである。形状はそれほど難しくない締結部品だったが、そこには、ひと癖ある技術要素が含まれていた。最初は何度チャレンジしても工具があっという間に摩耗してしまい、到底要求コストでは作れなかった。戦闘機と違い、旅客機の部品に高級品は使わない。設計は古く、熟成した技術を用いる事で安全性が担保される。ゆえにずっと同じ図面を使い続け、じわじわとコストダウンが要求され、その厳しい品質管理レベルを考えると利益率の高い仕事にはならない。しかも、ロットが少ない。断続的にちょこちょこと生産して、完璧な品質管理が求められる。「おいしい」仕事とは到底言えないものである。

 

しかし、良いところもある。一度受注が決まってしまうと、10年間といったスパンで継続する。発注側としても、品質維持のため、製造元を変えるのに大変なリスクを伴うためだ。また、納期もたっぷりいただける。これらを考慮すると、実は航空部品は小さな会社に向いている。安定した収入の基盤になる。

 

最初はコスト的に不可能かと思われた部品であったが、数カ月の実験加工の後、ついに受注した。とてもうれしかった。この部品をきっかけに、次から次へと扱う製品が増えた。一度受注した製品は、他社に流れる事がなく、航空部品の売り上げは毎年順調に増えていく。リーマン・ショックでも、他の業界からの受注が大きく落ち込む中、ほとんど売り上げは減らなかった。やはり、この分野は由紀精密に合っていることを確信した。

 

その個性をさらに伸ばすため、2010年に航空宇宙品質規格「JISQ9100」を取得した。この品質規格では、完璧なトレーサビリティーが求められる。飛行機が事故にあったとき、その部品が「いつ、どこで、誰が、どうやって作ったか」を、使った治工具からNCプログラムまで全てさかのぼれるようにする必要がある。費用も含め負担は増えるが、由紀精密の「強みを伸ばす」方針だ。今年6月には、世界最大規模の航空宇宙関連の展示会である、パリ航空ショーに出展する。日本の町工場の底力を世界に見せつけたい。

20110425

(日刊工業新聞 2011年4月25日付オピニオン面に掲載)