2013.5.27
三代目奮闘記
第93回『航空機部品への挑戦』
由紀精密は2008年の国際航空宇宙展への出展を皮切りに、航空機部品の受注獲得に乗り出した。由紀精密の強みである信頼性を最も必要としている分野のはずだ、ということが挑戦への動機だった。当時まだ電子・電機関連、半導体製造装置部品が売り上げの中心。挑戦すると決め、展示会に出してみたものの、予想通り簡単に参入できない。どうやったら選んでもらえるか。航空宇宙分野の品質マネジメント規格(JISQ9100)を知り、取得はお金も労力もかかり大変、という話は聞いた。取るしかないと決めて挑戦し、10年に取得した。
並行して、ウェブサイトの刷新、メディアからの情報発信にも助けられ、少しずつ航空関連メーカーから声がかかる。あるメーカーから、調達先に苦労しているがやってみないか?という1通のメール。実験、技術開発に数カ月かけ、ある一つの部品を受注することができた。これをきっかけに、じわじわと部品点数が増えていく。
航空機部品は、一度受注してしまうと、よほどの事がない限り発注側は調達先を変えない。これは、製造方法そのものを一度決めたら変えない、という工程凍結の考え方があるからだ。一見、製造側からの工夫の余地がないように思えるが、決められた事を確実に、もれなく何十年も続ける事は、並大抵の事ではない。このおかげで、我々は安心して飛行機に乗れる。航空機の部品は高級で、利益率も高い?と思われる事が多いが、残念ながらそんな事はない。
確かに、部品1点の単価を見ると他の業界の部品より少々良い値段のように見える。しかし、その部品は材料から始まって、誰が、いつ、どこで、どのように作ったか、という全ての情報がひもづけられていないといけない。基本的に全数検査が求められる。部品を流すため必要な品質マネジメントシステムを継続するにも年間で数百万円かかる。このコストが上乗せされていると考えると、原価計算をしたくなくなる。さらに、全体ボリュームの問題がある。量産といっても年間数千個の部品数は、自動車業界に比べると、3ケタも4ケタも少ない。自動ラインのような大きな設備投資はできない。
多くの企業が航空分野への参入を試み、挫折しているのはこれらの理由があるだろう。では、由紀精密はなぜこだわるか。一つは、小さくて管理の行き届いた会社が、この業界に向いているという確信がある。もう一つ、こういった仕組みは世界共通、この分野で高い評価を受ければ、世界中から同じレベルを求められる製品が受注できる。余談だが、筆者の母方の祖父は戦争中からパイロットであった。特攻も寸前で免れ、そのまま旅客機に乗るようになる。60歳のラストフライトで、祖父の操縦するYS11に乗った経験は今でも強く頭に残っている。
(日刊工業新聞 5月27日付オピニオン面に掲載)