第83回『宇宙ビジネスを考える』

宇宙ビジネスを考える 2013_02_18

シンガポールに来ている。現地でビジネスをしている大学の先輩でもある経営者からのお誘いで、ここで開催されるGSTC(Global Space Technology Convention)に参加することになった。世界中から宇宙関連の組織が集まる国際会議である。シンガポールはアジアの流通の拠点として有名だが、赤道直下にあり、ロケットを打ち上げるにも都合がよいロケーションでもある。それが理由というわけではないだろうが、国を挙げて宇宙ビジネスに取り組んでいる。

 

由紀精密は超小型衛星の部品を供給している。主にアルミでできた切削加工の部品である。部品を作れるというだけではなく、どうやったら宇宙に持っていける品質をコストを抑えて作る事ができるのかということを、機械設計の視点から提案できることが由紀精密の強みである。

 

しかし、機械加工に関しては60年以上の歴史を持つ由紀精密も、宇宙関連のビジネスに関わるようになってからまだ5年そこそこである。宇宙技術が専門の技術者もいない。実は結構基本となる思想、考え方が抜けてはいないだろうか。こちらが良いと思ってした提案が基本的な部分で矛盾してないだろうか。そういうことを考える上でも、世界の宇宙ビジネスを俯瞰(ふかん)的に考えるこの会議は一つのベースの知識となるだろう。

 

国際的に協調する必要がある典型的な問題の一つに、スペースデブリ(宇宙のゴミ)問題がある。地球の周りには、10センチメートルを超える大きさのものだけで1万6000個以上のゴミが回っていて、これがぶつかって衛星を破壊するリスクを常に抱えている。例えば地球を1周90分で回る衛星に、逆回転で回るデブリがぶつかる場合、秒速15キロメートルを超える信じられないスピードだという。これらのゴミがすべて追跡されているということは驚きだ。

 

この宇宙のゴミ掃除は、ビジネスとしては成り立たない。”いつかぶつかるかもしれない”ゴミを除去するために誰がお金を払うのか。ここは国際的なルールが必要になる。もう一つ問題がある。このゴミを片付ける技術と、他の衛星を破壊する、あるいは撃ち落とす技術は直結している。どこかの国がゴミ掃除の実験として他国の衛星を撃ち落とす技術を得ることも考えられる。しかも現状では、これを取り締まる法律もないということだ。普段はこのレベルで考えたことがないので頭の違った部分が働いている気がして面白い。

 

それにしても、シンガポールに初めて来たが、違和感がない。車が左側通行であったり、アジア人が多かったり、英語ですべて問題なかったり、気候も暑いが耐えられないほどではなく、過ごしやすい。欧州進出がうまくいったら、アジアでのビジネス拠点としては素晴らしいだろう。また妄想が広がる。

20130225

(日刊工業新聞 2月25日付オピニオン面に掲載)