2013.2.18
三代目奮闘記
第82回『「ケンカしない」作戦』
「ケンカしない」作戦 2013_02_18
7日、パシフィコ横浜。10台以上のテレビカメラ、25社を超えるマスメディア、会場を埋め尽くす観客の歓声の中、第2回全国製造業コマ大戦の全国大会が行われた。七つの地方予選を勝ち上がった14チームと午前中に行われた敗者復活戦の勝者、前回大会優勝の由紀精密。合わせて16社によるトーナメントが始まった。
優勝した第1回大会での由紀精密の作戦は、コマをとにかく重くし、ぶつかり合う時に相手よりも長く回るようにすることだった。重くすると土俵との摩擦で回転がすぐ落ちてしまうので、土俵と接触する部分だけに摩擦係数の低いテフロン樹脂を埋め込んだ。この作戦で相手コマを次々と倒して優勝。その後の地方予選でも、この重量級コマはスタンダードの一つとなった。
今大会は全く違う手法をとった。美しく、長く回して勝ちたい。土俵の摩擦を考えると長く回すにはコマを軽くする必要がある。しかし、軽くすると相手のコマとぶつかった時に圧倒的に回転力が失われ、負けてしまう。
この問題を解決するため考えたのは「ケンカしない」作戦である。相手にぶつからず、長く回り続けて勝つ。コマ大戦の土俵は真ん中が凹になっているため、投げられたコマは土俵の中心部に集まる。ケンカしないためには、中心に落ちなければ良い。
理屈は簡単だが、重力に逆らって土俵の縁付近にとどまり続けることは簡単ではない。まずは土俵が柔らかい材質でできていることに注目した。ここに刺さる先端を持ったコマを作れば中央に落ちないのではないか。実際に何パターンも作ったが、先端をとがらせると、ほとんどが長く回らなかったり、先端が刺さったまま振れ回りを続け、すぐに倒れたりしてしまう。100個を超える試作品を作り何度も先端の形状を変更し、ようやく土俵の縁にとどまり6分以上回るコマが完成した。重いコマが多い中で、5グラムという超軽量でケンカせずに回り続けるコマで勝てたら爽快である。
さて本番。由紀精密のコマは1回戦、2回戦と、ぶつけようとして失投する相手チームもあり、無事に勝ち上がった。準決勝。相手はタングステンの超重量級である。これは格好の対戦相手だ。しかし、由紀精密は中央付近に投げてしまい、相手とぶつかってしまう。もちろん敗北。2投目は相手を意識しすぎて失投。準決勝で敗退となってしまった。
3位決定戦では、作戦通りにケンカせずに勝つことができた。結局、優勝したチームはわれわれが準決勝で敗北した重量コマのチームだった。今回、この全く新しいコンセプトで3位に食い込めたことは意味があるとは思うが、やはり、優勝できなかったことは悔しい。次回、復活優勝を目指す。
(日刊工業新聞 2月18日付オピニオン面に掲載)