2012.7.2
三代目奮闘記
第55回『社員6人のダイショウ』
社員6人のダイショウ 2012_07_02
東海カーボン、東邦チタニウムという、アルバックとともに茅ケ崎を代表する大手企業の広大な敷地に挟まれた小さな工業団地に14社の小規模な中小企業が並ぶ。この工業団地は1983年に完成。由紀精密は同じ茅ケ崎の矢畑からここに工場を移転した。
由紀精密の向かいに位置するのが石塚裕社長(43)が経営するダイショウだ。従業員は6人。金属加工で数量の少ない試作を中心に、4軸マシニングを用いた複雑な加工を得意とする。創業者である社長の父、職人気質の会長は今も元気に旋盤を回している。
石塚社長は建築を学び、大学卒業後ゼネコンに勤めた。建設業界で独立を考えるが、父の経営する町工場が頭に浮かび、後を継ぐ決意をする。家族以外の従業員は1、2人で、自ら機械を動かし、検査をし、現場だけではなく営業や見積もり、総務、会計、ウェブサイトの管理まで、何から何までやる必要がある。
仕事が深夜まで終わらなかった時、窓の外に見えるダイショウの工場に明かりがともっていると、負けてはいられないと気合が入る。
ダイショウは由紀精密、シンクフォー、永井機械製作所とともに、フランス進出プロジェクトを実行する主要メンバーだ。由紀精密よりもさらに規模が小さいダイショウにとって、海外に力を向けることは一層の困難を伴う。社長が10日間海外出張に出かけた時には会社の売り上げが大幅に落ち込んだ。しかし石塚社長は前向きだ。次の月には過去最高の売り上げを記録している。さらに、社長不在の時に社員が苦しんだことが社員の成長につながったと豪語する。さすが”男”石塚である。
前回のフランス出張では、現地企業の社長に各社のサンプルを見てもらい、さまざまな話で盛り上がった。中でもひときわ目をひいたのが、ダイショウのサンプルだ。4軸加工機で製造したそのサンプルは、先方が今まさに求めている技術だった。加工機とソフトウエアを持ってすぐにでもこちらに来てほしい、というオファーを受ける。しかし実際にはそうすんなりとは行かない。解決すべき問題は数多くある。 だが、重要なことは”世界で求められる技術を持っていること”である。会社の規模は関係ない。チャンスをつかむためには自ら動くことで、待っていてはいけない。由紀精密より小規模な会社の社長が、大きなリスクを負いながらもチャレンジする姿を隣で見ていると、こちらのテンションも上がってくる。茅ケ崎の工業団地には熱い相乗効果が生まれている。
(日刊工業新聞 7月2日付オピニオン面に掲載)