2012.5.21
三代目奮闘記
第50回『攻めの6年』
攻めの6年 2012_05_21
5月12日で37歳になった。働き始めて13年目。ちょうどインクスで働いた期間と由紀精密で働いている期間が同じくらいになる。65歳まであと28年。これまでの倍以上の期間働けることになる。ここまでの仕事を振り返ると、インクスでの6年はとにかく新しいものを吸収し、革新的な技術開発にチャレンジし、結果として会社の発展につながった。熱狂の中で仕事の喜びを感じた。
由紀精密での6年は町工場の現実に直面し、途方に暮れるが、めげずに新しいことに挑戦し、結果がなかなか出ずに焦り、悩み、お金がなくなることへの恐怖を味わった。その中でうまくいったことには涙が出るほどの喜びを、家族同様の社員と一緒に感じることができた。
次の6年は、めまぐるしく外的要因が変化する中、失敗を恐れながらもチャレンジできる最後の期間と思い、気力も体力も充実して攻めの姿勢で仕事をしようと考えている。 特に40歳になるまでの3年間。数ある行動目標の中で、特に力を入れていることが三つある。一つは本来由紀精密が得意とする高信頼性・高付加価値の少量量産の販路拡大と安定化。二つ目は一般消費者向け製品ラインアップの拡充。最後に欧州・北米市場の開拓である。 この三つはそれぞれ相関関係がある。
由紀精密のように金属の精密切削加工を生業としている会社が高付加価値・少量量産を求めると、航空宇宙・医療関連機器の市場は魅力的で発展性もある。それらの技術開発の中心となる先進国の市場開拓は避けて通れない。 この分野では、小さい国内市場では隣の会社と仕事を奪い合うことにもなりかねない。
もう一つの高付加価値製品として、一般消費者向けの嗜好(しこう)品があるだろう。2月には「SEIMITSU COMA」として販売をしたステンレス製の高精度なコマが3500個以上の売り上げを記録している。 総額では大したことはないが、こういった商品ラインアップが増えると、小さな由紀精密にとっては無視できない比率になる。しかも、インターネット販売なので、売り先に国境はない。実際に米国からの注文もある。 現在、量産品の減少で稼働率が落ち込んでいる機械が、昼夜問わずに安定して動き、そこで作られたものは、由紀精密が自信を持つ高い品質管理のチェックを受けて、世界中のお客さまに届けられる。
由紀精密のロゴの入った段ボールを開けたところにはお客さまの笑顔がある。至って当たり前なのかもしれないが、その当たり前のことを実現するためには、当たり前ではないことにチャレンジしていく必要があることを強く感じる。
(日刊工業新聞 5月21日付オピニオン面に掲載)