2012.4.23
三代目奮闘記
第47回『記録のばす八木選手』
記録のばす八木選手 2012_04_23
4月15日、第22回かすみがうらマラソンで由紀精密の八木大三が2時間29分35秒のタイムで走り抜けた。なんと1万6000人を超える出場者のうち9位だった。彼は由紀精密陸上部の部長。先輩女性陣からはダイちゃんと呼ばれかわいがられている。陸上部と言っても、零細中小企業である。部員は彼を含めて2人だ。 公務員の川内優輝さんが五輪候補になり話題になったが、公務員ランナーならぬ町工場ランナーだ。
八木選手はジャージ姿で走って出社する。足も速いが仕事も速い。複合旋盤を操り、従来は複数工程にまたがっていた複雑な部品にも、どんどんチャレンジする。個人向け商品を取り扱うブランチストア向けの商品製造担当でもある。 彼は名門早稲田大学の競走部で、箱根駅伝のレギュラーメンバーにも選考された(実際には走れなかったが)実績もある。
しかし、当時から継続的に速かった訳ではない。現在31歳の彼がマラソンでめきめきとタイムを縮めてきたのは、つい昨年あたりからである。 昨年11月の湘南マラソン。2回目の出場となった八木選手は有給休暇をとって参加した。中小企業は祭日でも休めないことは少々悲しい現実であるが、他の社員は出社していた。前年の同マラソンで、そこそこのポジションを走っていたので、いつも明るく自信満々の彼は、今回は行けます!と宣言していた。 そこで社員全員でこっそりと沿道での応援に繰り出し、往路を通過するのを待った。
先導車のすぐ後に1位の選手が通過し、しばらくしたら応援の準備を始めようと思ったその時、2位集団の先頭で八木選手が通過した。 まだ応援の準備ができておらず、皆があっけに取られているうちに、その姿は見えなくなった。この日は結局後半にペースが落ちて、2時間40分を切れなかったが、その後の東京マラソンで2時間35分台、寒川の駅伝ではアンカーとしてトップでゴールを切った。そして今回のかすみがうらでついに2時間30分を切る。こんなに早くタイムが伸びると想定していなかったので、30分を切ったら遠征費用を部費として負担するよ、と言ったことを忘れていた。
彼は由紀精密のロゴが大きく入った黒いユニホームを着て走る。名だたる大企業のロゴを背負って参加する実業団ランナーの中で、無名の零細企業のロゴを背負っての町工場ランナーの快走。実に誇らしいし、彼の活躍で会社全体が明るくなる。来年はパリマラソンで由紀精密のロゴが躍っている事を想像し、彼をしっかりとサポートできるように、会社の体制もきっちりと整えていきたい。
(日刊工業新聞 4月23日付オピニオン面に掲載)