第45回『レースと経営の共通点』

レースと経営の共通点 2012_04_02

由紀精密は茅ケ崎駅から徒歩20分ぐらい北に位置する工業団地にある。東海カーボンと東邦チタニウムという茅ケ崎を代表する大企業の大きな敷地に挟まれた小さな工業団地である。12社ほどの製造業を中心とした中小企業が進出している。 どの会社の経営者も個性豊かで楽しい仲間だが、中でもひときわ個性的な社長が経営する会社がある。

 

社長の経歴は元全日本ロードレースのチャンピオン。彼は父親が経営者だったわけではなく、バイクに乗るために当時レーシングチームを所有していた中小製造業に入社した。 そこで仕事の上でも実力を認められ、若くして社長に就任した。その後、事業の承継には親子や親族の関係でないことから苦労したが、新しい会社を起こし、営業権を渡すことでオーナー社長のポジションに落ち着いた。株式会社シンクフォーの誕生である。

 

山下祐社長は学生時代にレースを始め、43歳になる今でもスポットでレースに参戦するほどのベテランだ。また、専門誌に自ら試乗してサーキットを走らせたバイクのインプレッションを書くほど、バイクを評価する視点には定評がある。 彼に言わせるとバイクのレースと会社経営は似ている。

 

似ている点の一つはチーム運営と会社組織の運営。どちらも総力戦であり、一致団結して進めないと効果が出ない。もう一つは目標設定とそれに対しての努力。レースでは1位になるという強い目標を持ってこそ組織が一体となれる。トップを目指すことはレースの場合と同じように重要なことだ。努力の仕方で、自分が目いっぱいやったことがそのまま結果に反映されるわけではない点もレースと経営は似ているという。

 

山下社長の尊敬すべきところの一つに、難しい仕事に利益を度外視してチャレンジしていくところがある。利益だけを考えれば手を出さないほうが無難な仕事でも、果敢にチャレンジする。これに社員もついていこうとしてモチベーションが上がり、技術力も上がっていく。リスクはあるだろうが、そこはバイクの世界で頂点を極めた感性もあるだろう。単純計算だけでは解を出すことはできない世界での勝負だ。

 

今年1月、一緒にフランスの中小企業を訪問した。彼は瞬間的にそこで作っている製品の単価を言い当てた。それはわれわれが進出したとしても十分利益を出せる単価であった。バイクに乗ることも製品を加工することも世界共通の技術である。そこに言語も人種も関係ない。山下社長には、是非マン島のレースに出場してもらいたい。
20120402(日刊工業新聞 4月2日付オピニオン面に掲載)