2012.3.12
三代目奮闘記
第42回『やまぐち産振財団』
やまぐち産振財団 2012_03_12
山口県に来ている。やまぐち産業振興財団とのお付き合いはすでに4年以上。IT戦略セミナーの講師として年に1回程度地元の中小製造業の方々と交流を持っている。前回はちょうど1年前。帰りの宇部空港の液晶テレビであの大震災のニュースを知り、大変な衝撃を受けたことを鮮明におぼえている。この連載を書き始めたのもその直後なので、連載継続ももうすぐ1年になる。
山口県にはほとんど大きな地震がないそうだ。地震だけでなく、自然災害による被害が少ない県として有名で、近いうちに大きな地震にあうリスクを抱える東京から、首都の機能を移管してはどうか?と本気で思ったほどだ。地元の中小製造業経営者の方々とは、すでに何度もお会いし、会社を訪問するなど親しくさせていただいている。大企業が次々と県内から撤退するという悪条件を乗り越え、元気な中小企業はどんどんと新しい仕事を取っている。
ミヤハラの松原忠彦社長は、人の手では組み立てが不可能なほど小さく複雑な機構部品を精密に組み立てる装置を開発し、大手メーカーに多く採用されている。サン精機の楠牟禮(くすむれ)勲社長は、自社製品である搾油機の販売から、その搾油機で搾ったつばき油の製品化、ブランディングまで手がける。中村鉄工所の中村毅一郎社長は、地元の鉄工所がどんどん閉鎖を余儀なくされるなか、高い技術力と経営手腕で収益をあげている。TAKEUCHIの竹内雄材社長は自動車部品を高効率で加工することで、量産品とはいえ、国内でも高い利益を出せる事を実証した。他にも多くの魅力的な経営者からたくさんのパワーをもらう事ができる。
東京の大きな製造系の展示会では、必ずと言っていいほど、山口県のブースを目にする。これほど積極的に県外にアピールを続けている県も珍しい。その立役者がやまぐち産業振興財団である。財団の松田正樹氏は毎日全国を駆け回り、県内企業と県外企業の接点を作っている。彼の全国製造業に対する知識は大変なもので、どんなメーカーにもコネクションがある。私を財団のセミナーへ誘ってくれたのも彼だ。
元気な財団と元気な経営者。彼らと囲む山口県名産のフグ料理は格別である。山口県では、フグを「ふく」と呼ぶ。濁点はつけない。「福」につながり、縁起がいい。
神奈川県も山口県も、日本の中小製造業全体が抱える問題はほぼ共通。国内の需要が少なくなり、コストダウンへの要求がいっそう厳しくなる中で、何をしていくべきか?何を作るべきか?この話になると暗い雰囲気になってしまうことが多いが、「ふく」を囲みながら、いつもよりかなり前向きな良い議論ができたと思う。
(日刊工業新聞 3月12日付オピニオン面に掲載)